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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第11回:『 「できた!」 〜小さな気付きを大切に・・・ 』
ウィズ副施設長 南舘晋也

2014年7月15日発行(機関誌113号)

「できた!」 〜小さな気付きを大切に・・・

”ウィズ”は、2000年10月に通所授産施設”シャローム分場(カナンの園リサイクルセンター)”として、3名の利用者の方を迎え開所しました。 そのうちの一人Aさんは三愛学舎卒業後、シャロームで半年働いた後ウィズのメンバーとなりました。私も今まで経験のない福祉事業所の指導員として一緒に働き始めました。 当時Aさんは、周りの様子を見ながら一人で過ごすなど、物静かな印象でした。ある日の作業中、Aさんがペットボトルのラベルがいっぱいになった袋の口を自ら結ぼうとしていました。 それまでは他の人にやってもらっていたのですが、自らやってみようとしていたのです。しかし、初めてのことで中々うまくできず、それでも何とか頑張っていました。

その日から、一緒に結ぶ練習が始まりました。持ち手の長さを調整してみたり、どうしたら解けないように二重に結べるかを繰り返し2人で練習しました。 必死に取り組むAさんとの練習は毎日続き、数週間後ついに自分で結ぶことができました。「できた!」と思わず声を掛け合った時の満面の笑みは今でも忘れることができません。 支援者として未熟な自分は、只々一緒に向き合い練習するだけの日々でしたが、できたことで自信を持ち、自分で結んだ袋を集積場所に持ってくる誇らしげな顔がとてもまぶしく感じられました。 他の人から見れば、小さなことかも知れませんが、Aさんにとっても私にとってもとても大きな励みになる出来事でした。

それから数カ月後、シャローム・ウィズの広報誌「KAERU」たより(毎週金曜日発行)に、Aさんの生い立ちをお母さんに書いていただいたことがあります。 小さい頃は学校に行っても中々教室に入れなかったり、泣き虫だったこと。一方で、運動会ではリレー選手になったり、応援団をしたり。自転車にもいつの間にか乗れるようになった等のエピソードも書かれていました。 そうしたAさんを知り、何事にも一生懸命に取り組む姿勢があったからできたのだと改めて感じました。

日中活動の場で目の前のことだけを見ていては分からない、その方の生い立ちや育ってきた環境など、その背景を知り理解することで見えてくるものがある、 との話は聞いていましたが、当時の自分にはあまりよく理解できていませんでした。その方の全体像を知ることの大切さを改めて知った時でもあったように思います。

あれから十数年、現在ウィズは就労継続支援B型事業所として22名の方々が利用するまでになり、リサイクル作業の他、4つの外部作業も行っています。 Aさんも今では賑やかな位に大きな声で他のメンバーに声を掛け、自信を持って作業に取り組んでいます。時には自分の気持ちを言葉ではうまく表現できず物に当ってしまうこともありますが、 ”気持ちをわかってほしい”と願っての行動と捉えると、こちらの関わり方は変わってきます。言葉にならない思いをどれだけ汲み取ることができているのか、 様々な場面でいかに向き合うかは結局は自分自身に問われていることでもあると感じます。

就労を中心とした日中活動の場であるウィズで、「働くこと」は楽なことではありません。暑い中、汗を流しペットボトルや発泡スチロールの処理にあたります。 時には土埃にまみれながら近隣の農家の畑でレタス収穫後のビニールはがし作業も行います。冬は氷点下15度以下になる日もある奥中山ですが、雪かきから始まり、寒さに負けずにそれぞれの作業へと移ります。 外部での鶏舎清掃作業は完了期限もあり、それまでに終わらせなければなりません。利用者も職員も一緒に働き、一人では大変なこともみんなで協力して取り組むことで乗り越えてきました。 周りの頑張る姿に後押しされ、作業に向かう姿や声を掛け合う姿、そして終わった時の達成感を共に味わう姿など、様々な場面に出会ってきました。 カナンの園の基本理念にある「共に学び、共に育つ」。まさにこの十数年は自分にとって皆さんに支えられながら、共に学び、共に成長できた時間でした。

慣れと共に小さな変化に気付けぬことのないよう、一人ひとりの希望や願いを感じ取れるような感性と、そのために何ができるかを考えられるよう、日々努力していける自分でありたいと思います。 これまでの出会いと一緒に働く時間を与えられたことを大切に、あの時の「できた!」の一言と笑顔を忘れることなく・・・

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