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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第19回:『 同じ目線で… 』
生活支援センター主任 村上篤

2017年3月15日発行(機関誌121号)

同じ目線で…

生活支援センターではグループホームの支援の他に、在宅の人を支援する居宅介護事業を行っています。

Aさんと出会ったのは一昨年の3月、私が居宅介護のサービス提供責任者を任されて1年目のことでした。 相談支援事業所から在宅の方で通院支援をしてほしい方がいると依頼されたことが始まりでした。

Aさんは、あるある病いを患っており、歩行が不安定です。現在はご両親と一緒に住んでおり、 日中は生活介護事業所に通っています。病気を発症し自宅へ戻るまでは一般の会社で働いていました。

今までは一人で通院されていましたが、病院で転倒することがあり、病院から付き添い人をお願いされ、 Aさんは仕方なく福祉サービスを利用したいということで依頼がありました。

お話好きなAさんとは通院中、様々な話で盛り上がります。会社で働いていた頃のこと、現在通っている日中活動先のこと、 気さくに話してくれるため、通院中も気を張らず過ごすことができます。 特に高校野球がお好きなようで、夏の高校野球シーズンにはその話題で盛り上がります。

支援を始めて3カ月が経った頃、Aさんから「自分が通院しているもう一つの病院にも付き添いをしてもらえないか」と話がありました。 それを聞いた時に通院先までの距離やかかる時間を考え、「考えさせてください」とAさんの依頼を簡単に受け流してしまいました。

その話から1週間が経った頃、Aさんが「通院には一人で行けと言われた。村上は上から目線で話している。高飛車だ。支援者を変えてほしい」 と話をしていると聞きました。非常に厳しい言葉で、聞いた時には驚きで何が何だかよくわからなかったように記憶しています。 とにかくすぐに謝罪をし、受けとめていただきましたが、その言葉は深く自分の中に残りました。

Aさんがなぜあれほど厳しい言葉を発したのか。今思い返すと、私はAさんから依頼された時、 Aさんの気持ちに耳を傾けていなかったのではないかと思いました。

前述したとおり、Aさんはもともと普通に働いていた方で、病気を患い、それ故に自分でやりたいという思いが強く、 日中活動先などで介護に拒否的だったと聞いていました。 通院にも自分で行きたいと思っていたようですが、病院から言われ仕方なく付き添いをお願いしたという経緯があります。 そのような経緯のあるAさんが通院の付き添いを自分から依頼したということはAさんにとってとても大きな葛藤を超えてのことだったと思います。 それなのに、私はAさんのことよりも、自分や事業所としての都合を考えてしまったことが伝わってしまったのだと思います。

「サービスをする支援者とサービスを受ける利用者」。福祉にはこのような構図があります。 本来、サービスを行う側とサービスを受ける側には上下などありません。しかし、私は支援する側として、自分の意識しないうちに、 サービスをしてあげているという気持ちがでていたのかもしれません。Aさんからのあの厳しい言葉は、 無意識のうちにサービスしてあげているという自分の甘さへの叱責だったのではないかと思います。

生活支援センターのグループホームには言葉で話せない人もいます。支援者が気付いていないだけで、 Aさんのように思っている人もいるかもしれないと感じ、それは非常に恐ろしいことだと思いました。

現在も2カ月に一度、Aさんの通院付き添いをしていますが「村上さんとの通院が一番リハビリになる」という嬉しい言葉をいただきます。 居宅介護はAさんのように数カ月に一度の支援でお会いするという方も多い事業です。 Aさんも2カ月に一度という多くない時間だからこそ、Aさんとのお交わりを大切にしていきたいと思います。

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